ケトが言うにはそこには世界最大とも言われる青銅と石灰岩の観測装置があるそうだ。
モデルはウズベキスタンのサマルカンドにあったウルグ・ベク天文台。
占星術もあるにはあるが、それ以上に信仰上の理由──人の小ささを知るためには大いなるものを知るべきだという思想によって彼らは動かされているのだとか。
Quid ringeris delicatule Philoſophe, ſi matrem ſapientiſſimam, ſed pauperem, ſtulta filia, qualis tibi videtur, nænijs ſuis ſuſtentat & alit?
(繊細な哲学者よ、愚かな娘が賢いが貧しき母を自らの力で養っているのを見れば、あなたは何と言うだろうか?)
──ヨハネス・ケプラー「De Stella nova in pede serpentarii(へびつかいの足の新星について)」より。拙訳。
本来はケプラーが言ったとされる「賢い母である天文学は、愚かな娘である占星術の手に入れるパンがなければ餓死していた」のような言葉を出典として持ってきたかったが探してもそこまでのことは言っていなかった。*1
ふざけるなよ。一致させろ。
たぶんラテン語で言う「
昔からの悪い癖だ。参考資料にする本があると該当箇所だけではなく頭から読んでしまう。
そして参考資料を積まねばならないのは大抵締め切り間近なので、とても読み進んでしまう。
宗教組織のくせにどうにも柔軟だな、と思い私は凝った首を回した。
というより宗教は本来そういうものでは……?
何回か授業をやって、対数関数の逆関数である指数法則については正の実数の範囲まで拡張しておいた。
$a^m \times a^n = a^{m+n}$ とかのこと。
「あくまで実用上の数、ですか」
0や負の数の数学的性質についてはかなり色々な議論がされてきた。ここらへんはアルベルト・A.マルティネスの「負の数学 : マイナスかけるマイナスはマイナスになれるか?」が参考文献として詳しい。
二項定理は古くから知られていた。
エウクレイデスの作品にも触れているものがあるとか。
整数 $n$ があって、$\delta = \frac{1}{n}$ と置くことを考えよう。
むしろ数学史的上で $e$ が複利計算の過程で1683年ヤコブ・ベルヌーイによってきちんと定義されたときには $n$ を使っている方の定義から発展している。ざっくり言うと「ある期間で1割複利のところを、半分の期間で0.5割複利にしたら同じ期間で借金はどれだけ変わるか?この分割と期間をもっと細かくしていったら?」という考えの延長で発見したのである。
「実際に最初の8項を計算すると、2.718253ぐらいでしょうか?」
$k!$ が大きくなる速度が早いのと比較的約分が簡単なおかげでこれくらいなら手計算でもいける。実際の値は2.7182818…なので小数点以下4桁まであっている。
「ならば、勾配は0.43といったところか」
$10^{3/8}$ と $10^{4/8}$ を計算して、その間を線形補間すればこのくらいは出せる。
「……つまり、どちらであっても値の範囲を絞り込めるので、どこかに値が近づいていくのは間違いないということですか?」
本来であればここらへんは「収束する数列は有界である」という方向で証明を行うが、実数の連続性をちゃんと定義していないのでこういう説明になった。ちなみにこの逆は成り立たず、ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理「有界な数列は収束する部分数列を持つ」と多少制限された形になる。
積分と極限を交換する時にどうとかなんとか。
数学的に厳密な処理ではないのに物理の計算でよくこういう形の変形が出てくることをベースとした数学科の人から物理学科の人への批判をもとにした有名な業界ネタ。対応させたい関数が一様収束という少し狭い収束の定義に当てはまればいいらしい。作者は工学畑なので知らない……。
係数が汚いとか次元が合わないとかいう議論は流すことにする。
グラフ上で近似曲線を引いて経験式を求めるとメートルと平方メートルを足し算するなんてことがしばしば発生する。これを回避するためにもとの長さを事前にメートルで割っておいて無次元量にするとかいうみみっちい数学的ズルが行われることが一般的である。
高温で起こった相転移が急冷によって保持されることで硬化が起こるとした
ここらへんは鉄の相変態に関わる「β鉄論争」に発展した。これには日本からも本多光太郎が参戦している。
力の変化に伴う構造の変化、温度の変化に伴う導電率の変化、圧力の変化に伴う体積の変化。
構造力学分野におけるモーメント、半導体の抵抗温度係数、ビリアル展開のあたりで微分の考え方はさらっと当然のような顔をして出てくる。理工系にいるなら微積分から逃れようとしても無駄なのだ。
冪級数を複素関数に拡張すればローラン展開ができるし、これを使えば例えば正規分布の相補累積分布関数みたいなものを計算しやすくなる。
ローラン展開は $x$ や $x^2$ のような冪級数を使うテイラー展開に加えて $x^{-1}$ や $x^{-2}$ のような $x$ の指数が負の項まで考えることで特異点を含んだ範囲にまで級数展開ができるようにしたもの。複素関数の分析に使われる。正規分布の相補累積分布関数はいわゆる「標準正規分布表」を作るために必要な関数だと思ってくれればいい。詳しくは今度やるかもしれない。この章と同じぐらいの数式率になりそうな気がするが……。
アイザック・ニュートンが時間微分を前提として作った記法、あるいはレオンハルト・オイラーやウィリアム・ローワン・ハミルトンにように記号として微分作用素を使うもの。ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツのように分数っぽく書くこともできるし、ジョゼフ=ルイ・ラグランジュのようにダッシュをつけてもいい。
アイザック・ニュートンの記法は
$$\dot{x}, \ddot{x}, \dddot{x}, \ddddot{x}$$
と表すもの。階数が多くなると表記が面倒くさくなるが、基本位置の時間微分である速度や速度の時間微分である加速度といったものの表現に用いられるのでそんなにいらない。事実ここで使っているTeX構文では点4つまでのものしか表示ができない。一応加速度の時間微分として加加速度あるいは躍度とか、そのさらに時間微分したものとしての加加加速度とかもあるがめったに使われない。一応英語圏では宇宙膨張の研究者がこれらに変な名前をつけたりしている。
レオンハルト・オイラーの方法は
$$D_x f, D_x^2 f, D_x^3 f$$
と表すもの。これは $x$ で微分していることを強調しているが、何で微分しているか見ればわかるならここの下付き文字はいらない。
ウィリアム・ローワン・ハミルトンが使ったのは
$$\nabla f$$
のような表し方。東地中海圏の
ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツのやり方は
$$\frac{d}{dx}f(x), \frac{d^2}{dx^2}f(x), \frac{d^3}{dx^3}f(x)$$
というある種の分数のように書くものであり、これはかなり広く使われている。$d$ は物理量や変数ではないので斜体ではなく立体の $\mathrm{d}$ で書くべきだと主張する一派も存在するが、大抵は面倒なので無視されている。一応ISO 80000-2では「Well-defined operators are also printed in upright type(定義が明確な演算子は立体で表示する)」とあるのだが。
ジョゼフ=ルイ・ラグランジュの方法は本文でもこのあと使いまくっているので説明は省略。
うるせえ二つ並んだプライムをセコンドと言わずにダプルプライムと言っているやつらに言われたくはないよ。
「 ${}'$ 」は英語圏(というよりイギリスとアメリカ)ではprimeと呼ばれるが、イギリスの古い用法である「ダッシュ」は今でも日本で比較的一般的である。とはいえ、本来「prime」は「一番目の」という意味なので、これを複数つける場合には「second」「third」のように呼ぶべきだ、そうでないなら「dash」と呼ぶべきといった考えはあるらしい。
ベクトルの外積、行列の積、あとは四元数というものもある。
「こういうのは積と呼ぶべきではないのでは?」という意見ももっともだが、結合法則や分配法則といった「積」らしい特徴は持ち続けているので積の仲間という扱いをされる。
まあここらへんの議論の親戚の子孫がフェルマーの最終定理の解決に一枚噛んでいるのでなかなか面白いらしいが、私は数学科の学部レベルすら怪しいので逃げさせてもらおう。
最近数式の誤りが誤字報告でされるようになってビビっている作者です。キイと違って逃げられません。
カール・テオドル・ヴィルヘルム・ワイエルシュトラスがこの手法を完成させた頃にはもうプラニメータは使われていたのだ。
プラニメータはヤコブ・アムスラー=ラフォンによって1854年に発明された地図上の面積などを計ることができる装置。内部で積分計算をしている。
一応電磁気を齧った時にフェーザ表示とかやったけれどもさ。
波を考える時に虚数を使うテクニック。角周波数 $\omega$ があるとき、時間 $t$ と虚数単位 $j$ を使って $j \omega t$ を含んだ式を使うもの。あまり説明が良くないな。抵抗、コイル、コンデンサを組み合わせた回路のインピーダンス(複素数に拡張した抵抗)などを表現したりするのに便利。
「必要な反復回数が多すぎますよね、なかなか落ち着きません」
一応最初の10項を足せば3桁ぐらいの精度は出せるが、それ以上を目指すと結構大変。分母が小さくなっているのでまあマシではあるが。
「こんな感じで目盛りを刻んだ何かを二つ用意する」
こういう計算装置を計算尺と言い、機械式計算機が生まれる前は理学、工学、建築、設計など幅広い分野で用いられていた。この種の目盛りの発明は1620年、エドマンド・ガンターによるが、それ以降の改良には多くの人が関わっている。
「あれを使えば、運動の大きさを変えられる。大きな動きを小さな動きに変換できるし、小さな差を大きな差として拡大することもできる」
キイが言っている原理はマイクロメーターという測定装置で用いられているもの。1772年に作られたジェームズ・ワットの卓上測定装置には0.1ミル(1ミルは1/1000インチ)、2.5マイクロメートルの目盛りがついていたのでこれぐらいを目標としているのだろう。なおここらへんの歴史の概要はミツトヨ測定博物館監修の「マイクロメータ進化の歴史」を見るといいと思う。川崎にあるミツトヨ測定博物館は要予約であるが一人でもちゃんと開館してくれるし、マイクロメーターオタクの須賀信夫が集めたコレクションや潤滑油の匂いがする工作機械(なんと整備されている!)が見れるのでとてもおすすめ。みんなも行こう!入館料は無料ですがミュージアムショップはないです。駅からちょっと歩くのと平日のみ開館なのでそこは注意して下さい。もし行けないならバーチャルミュージアムもあるのでそちらを……。
信じられないようなアイデアを生み出した人がいても、その背後や思想的な連環を辿ろうとするのだ。
少なくとも私の知る限りではシュリニヴァーサ・アイヤンガル・ラマヌジャンが未来や異世界からやってきたと主張する数学史研究者はいない。一応本人は女神ナーマギリのお告げだと言っていたのでこれはあれか、女神からチートもらうタイプの作品だな?