そういえば外観で船に竜骨がないように見えた。
多くの結び目と飾りがついた紐を触りながら、案内をしてくれた男が言う。
モデルはインカ帝国で用いられた結縄記録の「キープ」と、ミクロネシア地域で使われていた波のうねりと島の位置を枝や貝等によって記録した「スティック・チャート」と呼ばれるある種の海図。
症状からすれば明らかに長期間のビタミンC欠乏によって発生する壊血病だ。
ヒトを含む霊長目の一部、テンジクネズミ、コウモリの一種などではグルコースからアスコルビン(ビタミンC)を合成する経路における最後の工程に関わるL-グロノラクトンオキシダーゼが遺伝子変異によって機能しなくなっている。基本的に十分な果物などを摂取できる環境ではアスコルビン酸を合成しなくとも構わないため、この変異は淘汰の対象とならず残り続けたと言われている。これ以外のアスコルビン酸合成経路にかかわるタンパク質は他の代替困難な機能を持っており、一番影響の薄いL-グロノラクトンオキシダーゼの変異が自然界にはよく見られると考えられる。アスコルビン酸欠乏症は結合組織の形成に影響を与え、出血や骨の問題などを引き起こし、酷い場合には死に至る。
ニコラ・アペールが編み出したという食品保存方法だ。
とはいえニコラ・アペールの貢献の大きな点は工業的スケールへの拡大であり、こういった保存方法自体は既に知られていたという話もある。
芽胞を持った細菌がどれだけいるかはわからないので、もし開けてみて危なそうなら処分しよう。
食中毒を引き起こすボツリヌス菌は自然界に広く分布し、環境の変化に強い芽胞を形成し、嫌気発酵を行うというなんとも面倒な性質を持っている。産生する毒素もしっかり加熱しないと分解しないというおまけ付き。一応古くから亜硝酸ナトリウムを添加することでボツリヌス菌の増殖を抑制する方法が知られていた。なお亜硝酸ナトリウムは肉の発色を良くする効果もあるが、分解によって発生するニトロソアミンに発がん性が報告されている。まあボツリヌス菌の食中毒で死ぬよりよっぽどマシではあるが。
一応共和制ローマ時代のマルクス・テレンティウス・ウァッロが微生物による感染症を唱えていたが、あれはまあ直感が偶然当たったものであってちゃんと検証された仮説ではない。
Advertendum etiam, siqua erunt loca palustria, et propter easdem causas, et quod crescunt animalia quaedam minuta, quae non possunt oculi consequi, et per aera intus in corpus per os ac nares perveniunt atque efficiunt difficilis morbos.
(ある種の目に見ることのできない小さな生物が成長し、大気中に浮遊して口や鼻を通して身体に到達し、深刻な病気を引き起こすため、湿地のような場所では[訳者注: 前の部分で話している川の近くと]同様に注意しなければならない。)
──マルクス・テレンティウス・ウァッロ「
これは農地の場所についてアドバイスをしている部分であり、「もしそういう農地を受け継いでしまったら?」という質問に先人のアドバイスを紹介しているが、その内容は「売れ、無理なら諦めろ」と「風向きと日当たりを考えれば、まあ……」と言ったところである。この時代の技術的・光学的知識は微生物を発見するだけの背景がなかったことを示しているため、この発言は虫の幼虫やプランクトンなどからの類推であると考えられる。
「
純度の高い素材を使い、正確に配合された原料をもとにしたガラスは高い耐酸性を持つが、不純物が多く配合がいい加減なガラスだと結構怪しかったりする。
対照実験とか統計的分析とか、アドホックな仮説に対する消極的反対とか。科学史を少しでも齧っていれば、こういう科学哲学で扱われるような「科学」ではない手法で様々な法則や定理が導き出せたことは言える。
「アドホックな仮説」とは既存の理論に例外などを付け加えることで現実の事象と合致するようにした仮説のこと。根本的に間違った理論を延命させることもあるが、見過ごされていた影響を加味することにも繋がる。そして科学は案外こういうものの積み重ねだったりするのだ。世界は単純な理論で説明するにはちょっと複雑なのである。
まあ総称としての科学なんてものはメタヒューリスティクスの一手法に過ぎないのでそんなムキになって最適化する必要もないと言えばそうだが。
メタヒューリスティクスは問題に対して近似解を求める汎用的な手法のこと。よく人工知能と呼ばれているもののコア部分だったりする。なお
六分円形の本体の弧部分を少し固めに滑る
普通用いられる六分儀と呼ばれているものは扇型の中心角からして六分儀ではなく五分儀だったりするのだが、もう
まあ基本的に真鍮だからな。
銅と亜鉛の合金である真鍮、あるいは黄銅は変色が起こるものの腐食が起こりにくく、海事測定に使う六分儀のような機構に用いられてきた。今日ではもっと軽いアルミニウム合金などが用いられる。
まあ赤外線やら紫外線を完全に防いでくれるわけではないのであまり目にいいものではないだろうが、長期間の観測をしないようにすれば多少は大丈夫なはず。
国立天文台は煤をつけたガラスによって太陽を観察しないように言っているが、長時間見なければそこまで酷いことにはならないはず。あまりやり過ぎると日食網膜症のように網膜が焼けるので気をつけよう!
今日の日付から南中高度を求めて、さらにそこから今の太陽時を求めるのはそこそこ面倒な三角関数混じりの計算が必要だがこの世界の数学水準では可能なはずだ。
赤緯(天の赤道からの角度)は正弦波状に変化するが、実際にはこれに1年の日数の端数や歳差運動などが補正として入ってくることになる。面倒。
私が右腕を伸ばし、親指と小指をいっぱいに広げればその間隔がざっと330ミリラジアン。
こういうふうにミリラジアン単位で測定するメリットとしては、例えば100m先にあるものが角度330ミリラジアンであった時にその大きさが33mだと読み取れたりすることが挙げられる。軍事分野では射弾観測などで用いられる「ミル」と呼ばれる単位がおおよそミリラジアンと対応している。
「ならわざわざ六分円にしたのはなぜだ?90刻までの角度であれば八分円で測定できるだろうに」
天の南極をその範囲に持つ「
そもそもそれを言えば六分儀自体もGPSがあれば不要なのだが。
六分儀は精巧な測定機器であり、使用には訓練と適切な知識が必要である。ワンタッチで緯度と経度を出せるGPSのほうが壊れにくいし正確だし精度も高いので、今日では六分儀の実用性はほとんどないと言っていいだろう。とはいえ予備として多くの船に積まれている。
水性ガスとして作られる一酸化炭素は温度に難があるし、メタンは衛生上の問題もあって手を付けられなかった。
水性ガスは加熱した炭素に水蒸気を当てることで作られるガス。水素や一酸化炭素を含む。
「具体的な数字を出すことは今はできませんけど、北も南も氷が海に張るまでと言われていますね」
確実な記録に残る最初の南極圏に到達した船団は1733年のジェームズ・クックに率いられたHMS レゾリューション号を含む2艦である。
私のいた世界では1522年のフアン・セバスティアン・エルカーノ率いるビクトリア号が確実な記録としてはあったはず。
西回りでアジアに到達しようとしたフェルナンド・デ・
色々な学会に顔を出して、その後にさらりと懇親会に出ると結構共通の知り合いがいたりするのだ。
界隈が狭いとも言う。
Age of Discoveryが定着した用語だというのはわかっているので別にとやかく言わないが、私が言う時はできるだけ"Discovery"のところでエアクオートをするようにしている。
エアクオートはチョキの伸ばした指を曲げるジェスチャーのこと。
『法と秩序の代行者として、その責任と権限を自覚し、力を尽くして正当かつ公正に職務を遂行することを、ここに集まる証人の前で宣誓します』
モデルは日本の公務員の義務の一つ、服務の宣誓。
オープンキャンパスで私を教授と呼んだあの高校生だったかは元気にしてるかな?
肩書を間違えると色々と面倒なことになる。基本年上でも年下でも「先生」と呼べばなんとかなるのだが。
あの担当教員のやつ前日にちょっとヤバい案件があるからとスライドだけ私に投げて南麻布に急行して私の発表時には国際便の中で呑気に寝ていたと言うのでうーん有罪。
南麻布には大使館が集まっている。つまりは電話一本で海外に行くことになるような立場であり、そして機内でぐらいしか睡眠を取れないということなのでなんだかんだ言ってキイはこの担当教員に対して結構厳しい。
女性が大きな巻き貝を持って船の先頭に立ち、貝の頭に口をつけると独特の音が鳴る。
ある程度の大きさのある巻き貝を笛として使う文化は全ての大陸で見られる。
それと同時に係柱から縄が外され、ゆっくりと帆が下ろされる。
係柱は波止場にある係留のための縄を結わえる柱。縄が切れると大変なことになるので、関係者以外は近づいてはいけない。
そうそう、この世界の星空に北極星はないのだ。
北極星と私たちが呼んでいるポラリス、あるいはこぐま座α星は北半球から見える夜空でほとんど動くことがなく、肉眼レベルであれば十分北を指す目印として使うことができる。なお歳差運動により天の北極は星々の間を移動するため、実用上北極星と呼べるような星がない時代も存在する。なお、ポラリスが最も「北極星」となるのは2100年頃である。
見たことがあるものでは錘が垂れていたはずだが、それがない
四分儀と呼ばれる測定装置に似ている。上部を吊り下げるタイプもある。
西の方、つまりは図書庫の城邦の方角に向けているのは宇田
アンテナの大きさは波長によって決まるため、短波用の宇田アンテナはそこそこ大きくなる。家の上にあるようなやつは超短波や極超短波用。ここで「八木=宇田」としていないのは宇田新太郎の指導教員であった八木秀次の実験分野における貢献が怪しい(もっと言ってしまえば今日の価値観では研究不正の疑いが強い)せい。
「……南中が過ぎたのを確認した。さっきの時にちょうどだったはず」
南中の時にはほとんど太陽の高度が変わらなくなるので、ここでキイは水平線と太陽がギリギリ接触する角度に調整した六分儀を使って測定を行っていると考えられる。
「まあね。上空にある電波を反射する層が太陽の影響を受けているんだと思うんだけど、正直覚えてない」
超短波を反射するスポラディックE層のこと。夏の昼間に形成される。アンテナがなんとか持ち運べるサイズであるであることを考えると、使われている波長は超短波と短波の境目あたりだろう。
気化熱を使って冷ます容器に入れているから多少はマシになっているのかな。
モハメド・バハ・アッバによって再発明されたジーアポットがモデル。
円形闘技場における囚人の運命、ユダヤ教系新興宗教教祖の伝説的処刑、魔女狩り、
「円形闘技場における囚人の運命」は
必要な処置であるとしてか、あるいは娯楽であるかはともかく。
極刑としての死刑が犯罪防止に役立つかという議論は置いておくとしても、少なくとも監視のための人件費を削減できるという利点はある。
『確かに見える必要はないな。鳥がいれば数日分の航海で進む距離ほどに近づいていることがわかる』
ポリネシア地域での航海では星から読み取った緯度、波の方向、鳥の存在などを組み合わせて孤島から孤島へと渡っていた。
1600年ごろから船で使われているハンモックの起源の一つとして、西インド諸島で使われていた寝具がある。
一応この手の物質は防水性があるので船に使われたりもするのだが、見る限りこの船の船体には使われていない。
有名所ではコールタールで黒色になっており「黒船」としても知られるアメリカ合衆国海軍のフリゲート艦「サスケハナ」など。
エドモンド・ハレーの発案から実用までにはかなりの時間がかかったことからもわかるようにそれなりにいい加減な代物でしかないが、まあ無いよりはマシだろう。
1690年、エドモンド・ハレーが