図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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ここでは語り部であるキイが自明であるとして説明しなかった箇所や、作中では直接言及できない部分についての解説をします。ここで解説されなくとも、将来的に物語の中で説明されることがあるかもしれません。誤差や不純物が設定上無視されているんじゃないかと思っている読者向けになりますので、あらかじめご了承ください。


第18章解説

温泉

マルセル・グラトーやチャールズ・ネスラー、ヴィダル・サスーンの名前ぐらいしか知らない。

マルセル・グラトーはヘアーアイロンの発明者。この熱による髪の変形は時間経過によってなくなってしまうため、チャールズ・ネスラーが化学的手法による「永久(パーマネント)」の名をつけたパーマネント・ウェーブを実用化。このように発展した美容技術であるが、理容の分野においてもヴィダル・サスーンが「サスーンカット」と呼ばれる技法を開発し、今日広く用いられるようになった。

 

「そういえば、この地域では温泉は別に神聖視されてないんだな……」

沐浴のような清めの側面が強い入浴は、しばしば自然温泉と結びついてきた。

 

浮遊ゲートMOSFETの展示を見たことがあるが原理を完全に理解しているわけではない。

MOSFETはMetal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)の略。浮遊ゲートは電気的に独立しているために電荷を保存することができ、これを用いたメモリとして当時東芝に所属していた舛岡富士雄が発明したフラッシュメモリがある。

 

パラメトロンみたいな素子が主流となった時に数学モデルがちゃんとあれば効率的な回路設計もできるだろうしな。

この辺りの感じは,真空管や継電器の回路の感覚から見ると誠に奇妙であって,回路の設計は数学者か詰将棋家にでもまかせた方がようのではないかとさえ思われる.

 

──後藤英一. "パラメトロン研究". パラメトロンの研究 I. パラメトロン研究所編. 共立出版, 1959, p. 28.

 

パラメトロンはある論理回路を実現するための最適な組み合わせパターンがかなり独特であるため、発案者である後藤英一も上記のような言葉を残している。

 

医者

原義の方の壮年ぐらいの男性が声をかけてきた。

「壮年」は本来働き盛りの年代を指す。キイはもう壮年である。

 

応急処置のために必要なのは血液循環説とかだろうか?

ウイリアム・ハーベーは「Exercitatio Anatomica de Motu Cordis et Sanguinis in Animalibus (動物の心臓ならびに血液の運動に関する解剖学的研究)」でガレノスから続く医学の定説を覆す血液循環説を発表した。これは血液は肝臓で作られて全身に広がるのではなく、動脈と静脈を心臓が生み出す圧力によって循環するというものである。血液の流れる方向性を示すために腕を縛って血管を押さえ脈を調べた実験の図は医学史の本には結構出てくる。

 

火で炙って血を止めるなんて話はこの世界では見たことがないし、

焼灼止血と呼ばれる方法。血が止まっても火傷が残るという方法であり、今日では非常に小さい範囲での止血にしか用いられていない。

 

結紮法が採用されているという話も聞かない。

血管を糸で縛ることで止血する方法。慣れないと細い血管を縛るのはかなり難しい。

 

アンジェリーナ・ファニー・ヘッセの提案した寒天培地を使いたいが、紅藻の分布とかの知識がない。

アンジェリーナ・ファニー・ヘッセはKaiserliches Gesundheitsamt(帝国保健局)で働く夫のヴァルター・ヘッセの仕事を補助する傍ら、培地に寒天を使うことを提案した。あと寒天の原料になる紅藻は温かい海であればかなり広い範囲に存在する。

 

ヌードマウスを作るには時間がかかるか。

ヌードマウスは胸腺の機能不全により免疫系が阻害されたマウス。移植実験などに用いられる。

 

FOXN1のコードもどの染色体上にあるかも知らない。

FOXN1はケラチン発現を制御し、免疫にかかわる遺伝子。ヌードマウスではこの遺伝子が上手く働いていない。マウスの場合11番染色体にある。

 

消毒

まあ国会とか三部会のようなものだ。

ここでの三部会は聖職者、貴族、平民の議員で構成されたフランス王国のÉtats généraux(全国三部会)のこと。なおフランス語のÉtats générauxには「3」を表す単語は含まれていない。

 

洗気瓶や北里柴三郎式の嫌気性培養用の容器ぐらいは作れるようになっているはずだ。

「北里柴三郎式の嫌気性培養用の容器」は嫌気性菌扁平培養器のこと。亀の子シャーレとも言う。破傷風菌のような嫌気性細菌を水素雰囲気で培養するための設備。

 

私を実験の対象にできればいいけど、

5. No experiment should be conducted where there is an a priori reason to believe that death or disabling injury will occur; except, perhaps, in those experiments where the experimental physicians also serve as subjects.

(5. 死もしくは身体障害をもたらす傷害が発生すると信じられる先験的な理由のある実験は実行してはならない。ただし、実験医師が被験者となるような実験は例外である。)

 

──United States of America v. Karl Brandt, et al.(アメリカ合衆国対カール・ブラントら裁判)において、1947年の判決内で示された「Permissible Medical Experiments(許容されうる医学実験)」より。拙訳。詳細は「Trials of war criminals before the Nuernberg military tribunals under Control Council law no. 10 (Volume 2)(管理理事会法第10号に基づくニュルンベルク軍事法廷における戦争犯罪人の裁判(第2巻))」を参照のこと(リンク先はUnited States National Library of Medicine(合衆国国立医学図書館)ウェブサイト)。該当部分は181ページにある。

 

United States of America v. Karl Brandt, et al.(アメリカ合衆国対カール・ブラントら裁判)は「医者裁判」とも呼ばれるアメリカ合衆国によって行われた裁判であり、その中で示された「Permissible Medical Experiments(許容されうる医学実験)」は今日人体実験に関する指針であるNuremberg Code(ニュルンベルク綱領)として知られている。

 

なお、自身が被験者となる場合の特例については1931年の「Richtlinien für neuartige Heilbehandlung und für die Vornahme wissenschaftlicher Versuche am Menschen(先進的治療法および人体を対象とする科学実験の実施に関する指針)」やその後の1964年のDeclaration of Helsinki(ヘルシンキ宣言) (Medical Research Involving Human Subjects(人間を対象とする医学研究の倫理的原則))では明示的には示されていない。

 

測微尺

ウィリアム・ガスコインから始まる螺子(ねじ)を使った測定装置、測微尺(マイクロメータ)だ。

ウィリアム・ガスコインは天文観測のためにねじ式の角度測定装置を用いた。

 

製造過程と目的を考えるとヘンリー・モーズリーの控訴院、もとい工房で使われていた「Lord Chancellor(大法官)」に近くはあるが、構造はジェームズ・ワットのやつに近い。

ヘンリー・モーズリーは工房内の測定器を補正する基準として「Lord Chancellor(大法官)」と呼ばれるマイクロメータを作成した。Lord Chancellor(大法官)は当時イギリスで最上級の裁判所であった控訴院の監督者であったのでこの名前がついている。

 

実際にはトルクのかけ過ぎを防ぐために適切なラチェット機構とかを組み込みたいのだが、

ラチェットは一方向にだけ回転、あるいは移動させるための機構。これに締め付けの強さ、すなわちトルクを感知する機能を組み込んだ工具がトルクラチェットである。

 

ここでその上からもう一枚の硝子(ガラス)板を乗せるとくさび形の空間ができる。

この種の干渉機構の名前を探してもあまり出てこなかった。ご存じの方がいればお知らせいただければ幸いです。

 

可視光範囲のバルマー系列とかである一定の波長を手に入れる事ができればいいのだが

ヨハン・ヤコブ・バルマーは水素の出す可視光内のスペクトルの波長パターンを整数を用いた式で表せることを示した人物であり、彼にちなみ可視光範囲のスペクトル系列はパルマー系列と呼ばれている。ちなみにこの式は後にヨハネス・リュードベリによって拡張された。

 

数学の難しさに科学が囚われていてはいけない。

The degree of this mastery should be such that, insofar as possible, mathematical complications would not distract attention from the physical difficulties of the problem—at least whenever standard mathematical techniques are concerned.

可能な限り、その習得度は数学的複雑さが物理学の問題としての難しさから注意をそらさないようなものでなくてはならない──少なくとも、標準的な数学的技法が関係している場合は。

 

──Khalatnikov, I. M. Landau, the physicist and the man: recollections of L.D. Landau. Pergamon Press, 1989.より。拙訳。

 

リェーフ・ダヴィーダヴィチ・ランダーウ(ランダウ)は「Курс теоретической физики(理論物理学教程)」の著者の一人として知られる。このシリーズは物理学の教科書として有名だが、決して初学者向けではない。

 

引用文に示されるような彼の思想の現れの一つは「Теоретический минимум(理論ミニマム)」と呼ばれる試験であり、ミニマムの名に反して理論物理学全般の様々な知識とテクニックを要求される非常に難易度の高いものとなっている。

 

私が高校生の頃はWolfram Alpha先生に頼りきりだったからあまり大きな声では言えないが。

Wolfram Alphaはスティーブン・ウルフラムがCEOを務めるWolfram Researchがオンラインで公開している「計算知能」。理工学分野の問題に対する自然言語に近い入力を処理してくれる。大学教養レベルの数学であれば結構対応しているので、面倒な計算をこれに投げることで数学的難しさを無視して問題と向き合うことができる。

 

ちなみにこのシステムをもう少ししっかりとプログラミング風に記述できるMathematica、もしくはその対抗馬であるMATLABを使いこなせれば純粋数学や極度に面倒な物理学の一部分野、計算機科学の例外的問題を除いてかなりの理工系の問題に対処できる。なおMathematicaとMATLABのどちらを使うかは多少争いがあるが、それより上の方でPythonはいいぞとかRを使えとかFORTRANを崇めよとか聞こえてくるので怖い。やはりエクセル……。

 

嵌合

「ざっくりと、髪の太さほどでしょうか」

棒の太さが30 mmぐらいの時、JIS B 0401あたりを参照するとキイが示したような状態のはめあいの公差域の差は50から100マイクロメートルほど。

 

あとは地域に一つ万能工作機械みたいな旋盤とフライス盤とボール盤を全部まとめたようなやつを置くことができれば十分だろうか。

万能工作機械は大型船舶、極地施設、地方の発電所などに置かれるオールインワンで器用貧乏な工作機械。

 

「前にも言ったっけ」

第25話「規矩」を参照のこと。

 

私も思ったよりこのレベルの旋盤が簡単にできてしまったので今更ながら驚いている。

池貝鉄工所編「池貝喜四郎追想録」によれば明治22年の後半、4人の作業員と主に人力で動く輸入品の旋盤2機を使って半年程度で旋盤を作ったという。これは日本において作られた最初期の動力式旋盤。なお、この旋盤は現在国立科学博物館に「池貝工場製第1号旋盤」として常設展示されているが、今のところあまり詳しい研究は行われていないはず。

 

鉱物

この水車の回転運動で中央を固定した板をシーソーのように押したり引いたりして風を作るのである。

モデルは天秤ふいご。

 

黒眼鏡(サングラス)をかければ特殊知能暴力集団の構成員であると言われても納得である。

特殊知能暴力集団は暴力団ではないが暴力団とつながりを持って反社会的行為を行う人間のこと。専門家のような、それでいて堅気(カタギ)でない雰囲気を纏っていたのだろう。

 

比重

グレーン(穀物)と同じですね。

グレーンは帝国単位系の単位の一つ。SI(国際単位系)で言うなら正確に0.00006479891キログラム。もう少しわかりやすく言うとおよそ65ミリグラム。大麦一粒の重さに由来する。greinは穀物の意。

 

案外雑に作ったものでも機能するんですね。

なおただのジャッキだと一点でしか支えられないので何らかの水平維持機構が組み込まれていたと考えられる。

 

「どうせ測定もいい加減だから、ざっくりとした数字が出せれば十分だよ」

差を計算するので桁落ちが発生し有効数字が結構怪しくなる。できるだけ正確な測定を心がけよう。

 

重さと質量の違いに比べればその違いの説明は簡単なものだが。

質量という概念の形成過程はそれなりに面白いがここで語るのは大変なのでマックス・ヤンマーの「質量の概念」を読もう。なお読む時にはアリストテレス哲学とか基本的な物理学についての知識ががそこそこあるといいです。

 

なお私は悪い子供だったので「1キログラムというのは真空中で?」と思っていたが真面目そうに見える児童だったので口にはしなかった。

真空中で同じ重さの綿と鉄は体積が異なるために大気の浮力の影響を受け、天秤に載せた場合鉄のほうに傾く。あくまで理論上は。実際に発生する浮力の差を計算するとある程度条件を整えた環境でなければ傾きを検出できないことがわかる。

 

たてて、かけて、ひいて、おろすという小学校でやるような長除法だ。

小学校4年生でやったわり算の筆算の過程。こういう変な用語を使うのはまあ仕方のないところはあるが面倒だ。

 

シラクサのアルキメデスが書いた「浮体について」は日本語で読んだけれどもそれでもかなり大変だったし。

原題はΠερὶ τῶν ἐπιπλεόντων σωμάτων。海が丸いことをさらりと証明したり、放物線と直線で囲まれた図形が水に沈んだ時の喫水線を幾何学で求めたりとかなりやっていることはハード。

 

定性分析で使いたかったアンモニアもないのでまあ予備調査レベルになるが。

アンモニアは金属を含まないために金属の定性分析で塩基性環境を作るために使われる。もし水酸化ナトリウムとかを使うともとから入っていたナトリウムと区別がつかなくなるので面倒。

 

呈色

なおこの鉱物の近くで取れたらしい緑色の結晶は乳鉢の外側に傷をつけたので粉砕しないことにした。

この結晶は灰クロム柘榴石(ウヴァロヴァイト)。モース硬度は翡翠と同じぐらい。等軸晶系なので理論上は立方体や菱形十二面体の結晶を作る。

 

体内での(フッ)化物の生成とか考えたくない。

フッ素イオンが体内のカルシウムイオンと強く結合することで体内でフッ化カルシウムが作られるなんてことが起こる。防止のためにできるだけ耐酸性の強い手袋やゴーグルなどの防護措置をした上でドラフトチャンバーの中で作業を行うようにし、応急措置用のグルコン酸カルシウム軟膏のようなものを用意しておこう。なお作者の知る環境では事前にこの軟膏を二枚重ねの手袋の間に塗って実験を行っていた。正しい手順かは知らない。

 

グッタペルカでもいいです。トチュウとかタンポポでも……。

いずれもラテックスを作り出す植物。これに硫黄を加えたりすることでゴムを作ることができる。

 

魚油とかを加硫すればファクチスが作れるし、これとかも使えるんじゃないか?

Facticeはフランス語で「人工の」の意味。Factoryとかと同根。このような物質は中世の頃から知られていた。

 

私の父も子供に古い定性分析の本なんて読ませるなよ。

ここらへんの分析を書くにあたって国立国会図書館デジタルコレクションの様々な資料を参考にした。今どきはイオンクロマトグラフィーを最初から使ってしまうのでこのような分析はあまりされない。

 

そもそも王水めいた何かができている可能性があるので入れたくない。

王水は濃塩酸と濃硝酸をモル比3:1(偶然にもよく使われる濃度であれば体積比でも3:1)で混ぜることによって作られる酸化力が非常に強い液体。金や白金をテトラクロリド金(III)酸やヘキサクロリド白金(IV)酸にすることで溶かす。

 

ベリリウムとマグネシウムを除いたアルカリ土類金属を除外。

IUPAC 2005年勧告の無機化合物命名法(通称: レッドブック)によれば、アルカリ土類金属には2属全て(今のところベリリウム・マグネシウム・カルシウム・ストロンチウム・バリウム・ラジウム)を含むとされる。これを反映して日本化学会科学用語検討小委員会は2015年に「高等学校化学で用いる用語に関する提案」で高校教科書の書き換えを提案し、実際書き換わっている。ちゃんとリサーチをしていないとこういうところが危ないのだ。なおこの中でベリリウムとマグネシウムは可視光域での炎色反応を示さない。

 

水酸化鉄(III)の赤褐色沈殿だ。

実際には$\require{mhchem}\overset{\text{水酸化鉄(III)}}{\ce{Fe(OH)3}}$は安定ではなく、アクア錯体が重合することでコロイドや沈殿が形成されるらしい。面倒。

 

マンガン、コバルト、ニッケルを除外。

もしこれらのイオンがあれば硫化物を形成し沈殿する。

 

もしクロムが入っていればテトラヒドロキシドクロム(III)酸の錯体ができるはずだ。

$\ce{[Cr(OH)4]-}$のこと。過剰量の水酸化ナトリウム水溶液があれば沈殿になっていた水酸化クロム(III)が錯体を形成して溶解する。

 

これに塩酸を加えればクロムイオンの青っぽい色が出るはず。

クロムは水溶液中で酸化数によって色を変える。あと塩化クロム(Ⅲ)の水和物とかの色もあってかなりカオス。

 

後片付

仕上げに口で吹くタイプの洗瓶につめた蒸留水で綺麗にする。

今はまず見ないタイプの洗瓶。古い教科書を見ると載っている。

 

確か20世紀の初頭、ミハイル・セミョーノヴィチ・ツヴェットによるもの。

もともと植物色素の分析のために用いられたクロマトグラフィーと呼ばれる手法。この名前も「色」に由来する。

 

アントシアニジンらしい色素が含まれているので

アントシアニジンは植物内では多く糖と結合した状態である配糖体として存在する。これがアントシアニン。

 

硝石

金属加工の水準からしてコンスタンティノポリスを陥落させるほどの威力を持つ大砲は作れないはず。

トルコ語読みでウルバンとして知られるハンガリー王国出身の技術者がオスマン帝国に提供した鋳造青銅砲を踏まえたもの。この砲はコンスタンティノポリスの城壁を破り、東ローマ帝国を滅亡させることに寄与したとされる。

 

まあ木砲とかもあるが。

木で作られた大砲のこと。火薬の燃焼で生まれるガスの圧力を抑え込めれば素材は問わないとは言え、実質使い捨てだった。

 

水に溶けるなら水に溶かしてしまってから硝石を回収するという方法がある。

土中の好気性菌によって生成された硝酸イオンを水で洗うことで回収するもの。非乾燥地域でも使える。

 

今ここにある設備でも半月ほどあれば最低限の銃、もとい弾丸が狙った方向に飛び出す事実上のパイプ爆弾は作れる。

銃の基本原理は高速で起こる化学反応によって生まれた気体の圧力で弾丸を押し出すというものである。つまり銃身がこの気体の圧力に耐えられなかったり、弾丸が上手く飛び出ないと手の中で密閉された容器内に高圧ガスが溜まった状態になるわけだ。このままだと酷いことになることは想像が難しくないだろう。

 

ワセリンの代わりになる何らかの油脂と木タールの蒸留で得られるアセトンがあればコルダイトも作れる。

コルダイトはイギリスのExplosives Committee(爆薬委員会)のフレデリック・オーガスタス・エイベル、ジェイムズ・デュワー、ウィリアム・ケルナーらによって作られた安定性の高い無煙火薬。ニトログリセリン、ニトロセルロース、ワセリンの混合物をアセトンで溶かすことで作られる。なおこのアセトンを発酵によって作る手法を編み出したハイム・アズリエル・ヴァイツマンは大量の火薬を生産する必要があったイギリス政府との関係を深め、初代イスラエル大統領に就任している。

 

頭の中にはFGC-9の設計図が入っているので時間があれば電解ライフリング銃身を備えたそれなりの銃はできるだろう。

FGC-9は3Dプリンターで作成したパーツととEU内で合法的に購入できる部品から構成される自動式騎兵銃(カービン)。オープンソース。使用弾薬は非常に一般的な9x19mmパラベラム(戦いに備えよ)弾。銃身に螺旋状の溝を刻むことで弾丸を回転させ軌道を安定させることをライフリングと言うが、この銃はライフリング方法の一つとして電気分解を利用して銃身内を削る方法を示している。FGCはFuck Gun Control(クソ喰らえ銃規制)の意。

 

なおこの小説を読むような読者の少なくない割合が簡単な加工道具があれば銃を作れることと、銃弾の入手の面倒さと、火薬の取り扱いの法的複雑さを知っているであろうからあまり強くは言わないが、本当に危ないので基本的に銃は合法的に売っているものを手に入れよう。そして必要な時以外は人に向けないようにしよう。

 

結局はゼリグナイトの製法をタダで渡すことになったわけだ。

ゼリグナイトはアルフレッド・ノーベルの発明した可塑性(プラスチック)爆薬。IRAなどがテロに用いた実績もある。

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