図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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ここでは語り部であるキイが自明であるとして説明しなかった箇所や、作中では直接言及できない部分についての解説をします。ここで解説されなくとも、将来的に物語の中で説明されることがあるかもしれません。物語が終わりに向けて動いていることをなんとなく感じている読者向けになりますので、あらかじめご了承ください。


第26章解説

試験

製図台(ドラフター)に載せた上質の薄紙に黒鉛筆で書き込んでいるのは

ドラフターは武藤工業株式会社の登録商標です。建築系の人は試験でCADを使えないので手描きをやらなくちゃいけないのもあって需要はまだある。個人的には手描きじゃないと実力がつかないみたいな意見にはかなり懐疑的。この手の装置は20世紀初頭に開発された。

 

歌舞伎用語じゃない方の差し金。

L字型の定規のこと。歌舞伎用語の方は先に針金がついた黒い棒で、そこから裏からで人を操ることを指すようになった。

 

とはいえある種の「出世街道」を整備してしまうとそれ自体を目的にしてしまう事が起こるからな。

任意の機関で起こりうる事。定期的にリセットをかけたいところだが、たいてい出世した人が重要なポストにいるので面倒くさい。

 

かといって才能ある人間は大抵どんな無茶な課題を出しても越えてくるので採用できてしまうのがこういった恐ろしいところだ。

これにあぐらをかいて改善しない組織がどれだけあることか……。

 

「もちろん、頭領府から予算を取って、その学徒を代表に据えて計画を始めるよ」

モデルは明治時代に工部省工学寮が作った工部大学校。後に帝国大学工学部となり、東京大学工学部の前身となる。ヘンリー・ダイアーを始めとした多くの外国人による教育は日本の工学的発展方針の基礎を作った。ここの卒業生は卒業後すぐ自分が卒業研究として纏めた計画の指揮を取ったり、海外留学に送られたりと結構過酷なことをされている。

 

勧誘

機械式の脱進機に似た振動子を外部からの磁場で動かして、

脱進機は振動によって回転速度を制御する部品。

 

ステッピングモーターに伝える回転を生む

ステッピングモーターは交互に並んだ磁石、あるいは歯車の「歯」を引き寄せることで微小な回転量を生むモーターの一種。入力した信号で回転角度を細かく制御できる。

 

もしかしたら核物理学がちょっと難しくなるかもしれないけど

電子を基準にすると陽子の電荷が負になるせい。

 

体系

ランダム化比較試験に基づいたメタアナリシスをもとにガイドラインを作るのが常に正解だとは思わないし、

このやり方は医学系でよく見られる。

 

講師

実際に薄紙を写真の上に乗せる例をかつての世界で見たから

グラシン紙と呼ばれるもの。この名前の由来は硝子(ガラス)のようであることから。

 

文庫

「まずは千ほど」

文庫本のはしりであるレクラム出版はライプツィヒでヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの「ファウスト」を上下巻5000部ずつ刷ったが、すぐに売り切れたらしい。

 

私個人としてはフォーディズムはシンプルだし導入に手間は相対的にかからないので悪くないと思うけど、早めに精神的なものも含めた統計調査を進めてトヨティズムっぽくしたいんだよな。

ここでのフォーディズムはフォード・モーター・カンパニー社が採用した方法で、ベルトコンベアの脇に人を置いて流れ作業をさせるやり方のこと。トヨタ自動車はこのアイデアを改良し、ムダを削減して多品種少量生産にも対応できるようにした。こっちはトヨティズムと呼ばれることがある。

 

過労

フランスの制度みたいに一定以上の点なら全員、というのはちょっと一極集中になりかねないし

Baccalauréat(バカロレア)のこと。

 

診断

重石(タングステン)鉱よ、どこにあるのですか

tungstenは本来「重い石」の意。

 

一昔前まで住民基本台帳を普通に見れたのだし

住民基本台帳法の一部を改正する法律が施行された2006年11月1日以降、住民基本台帳の閲覧は難しくなった。

 

提案

基本的にここの船は荷物を運ぶためのものだが、船の民にとっては家でもある。

ここらへんの描写は家船とかを参考にしている。

 

演技

ラ・ブレードおよびモンテスキュー男爵、シャルル=ルイ・ド・スゴンダの「ペルシア人の手紙」とかが最初期のものじゃなかったかな。

普通はモンテスキューと呼ばれる。三権以上の分立を唱えたGrundlinien der Philosophie des Rechts(法哲学要綱、法の哲学とも)の作者。

 

うーん、小説に対する共感は読書で訓練される、みたいな話があったが根拠が出されているのを見たことがないんだよな。

感情史と呼ばれるジャンルが最近できつつあるが、まだ色々と課題は多い。

 

なお私は民俗学には弱いので真っ先に出てくる例が赤道祭である。

赤道や海の神に扮した儀式を含むある種の通過儀礼。軍隊だと暴走して苛烈な虐待になることもあるとかないとか。

 

復帰

三谷尚正の符号理論とかやっている人が学会にいたなぁ。

三谷尚正は日本の情報技術者。国立研究開発法人産業技術総合研究所の前身団体の一つ、通商産業省工業技術庁に勤務していたころに「逐次計算器に於ける数の伝送」というタイトルで発表をしているが、この内容は今日リード=マラー符号と呼ばれるもので、かつアーヴィング・ストイ・リードとデビッド・ユージン・ミュラーの発表に先んじていた。

 

なお、科学史界隈でこの人物にアプローチした先行研究を私は知らない。皆さん、狙い所ですよ。

 

線形代数はヘルマン・ギュンター・グラスマンだっけ?

ヘルマン・ギュンター・グラスマンはベクトルの外積を用いる数学におけるグラスマン代数、色覚認知に関するグラスマンの法則、音韻推移に関するグラスマンの法則で知られる。全部同じ人間なの、おかしくないか?

 

関孝和とかはあくまで連立方程式を説くツールの延長線上にしか行列を置いていなかったはずだし。

関孝和は日本の和算家。連立方程式を解く過程で行列式に相当する概念を導入したが、日本ではその後あまり発展しなかった。

 

欺瞞

実際、ペレグリン・フィリップスが接触法の特許で白金を使ったのが1831年だっけ?

ペレグリン・フィリップスは白金触媒を用いた硫酸製造のための特許を英国特許6069として1831年に取っている。

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