図書庫の城邦と異哲の女史   作:小沼高希

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ここでは語り部であるキイが自明であるとして説明しなかった箇所や、作中では直接言及できない部分についての解説をします。ここで解説されなくとも、将来的に物語の中で説明されることがあるかもしれません。解説のない部分は今後触るんだろうなとワクワクしている読者向けになりますので、あらかじめご了承ください。


第4章解説

書体

「ありますよ、そういうもの」

15世紀にヨーロッパで活版印刷が生まれるよりも先に東洋で活版印刷が用いられている。ただ漢字文化圏では文字数が非常に多いこと、漢字が支配階級の文化と結びつきが強かったのでそれ以外の文字の使用が主流とならなかったことなどが理由となって普及しなかった。

 

何本か歯が抜けていた。

昔から人間は虫歯に苦しめられてきた。解決策の一つとしての抜歯は、かなり広い文化に見られる。もちろん強い痛みを伴うし、合併症も少なくない。

 

総記

二回目以降があるかどうかは私の首が身体と離れ離れになったり、路地裏で刺されたり、あるいはどこぞの地下に幽閉されたりするかによる。

技術的革新を成し遂げた偉人を分析すると、その知識や発想というよりも政治力が強いことがある。

 

ここらへんは元の世界でのキリスト教の悪影響があったのかもしれない。

事実、地球の歴史と聖書の記述が切り離して語られるようになったのは18世紀になってからだった。

 

鋳造

色からすると1000℃といったところだろう。

熱を持った物体は常温付近では赤外線の、それより温度が高ければ可視光範囲の電磁波(光)を放出する。この電磁波の波長分布から温度を測定することで今一番身近なものが非接触式の体温計であろう。ちなみに1000℃程度の物体は少し黄色い感じがするオレンジ色の光を放つ。

 

4段階の徒弟制度が構築されていて、彼は上から二番目。

ヨーロッパの都市におけるギルドでは親方-職人-徒弟の階層構造があった。とはいえあくまで一般例である。

 

とはいえ例外がある。私たちの身の回りにある最も基本的な物質の一つ、水は氷になる時に膨張する。

水は特徴的な物性を多く持つ。これは一般的に水素結合が挙動に大きな影響を与えるからであり、それに伴う様々な現象が生命や地球環境にも表れている。

 

たぶん鉛と他の金属、運が良ければアンチモンを含むのだろう。

アンチモンを含んだ合金は凝固時の収縮が小さくなる。硬さとのバランスを取るために鉛、錫、アンチモンを組み合わせた合金は活字合金として我々の世界でも使われていた。

 

とっとと技術の属人化を終わらせたいが、これは明らかに反既存秩序的行動である。

この思想が出てくるのは工場制手工業(マニュファクチュア)以降であり、発展していくのはフレデリック・ウィンズロー・テイラーによる「科学的管理法(Scientific management)」からである。労働者を交換可能なものとして捉えようとするこの思想は、チャーリー・チャップリンの映画「Modern Times」で風刺されたような社会を生むことになる。

 

硝化

科学技術史は決して巨人の歴史ではない。数多の名もなき屍のほうが巨人よりも影響が大きいのだ。

過去の研究を踏まえて、それを超えていくという意味で使われる「巨人の肩の上(sholders of Giants)」という言い回しは12世紀には見られ、アイザック・ニュートンが手紙で使ったことでも知られる。なお、キイのような見解はCole, Jonathan R.; Cole, Stephen. The Ortega Hypothesis. Science. 1972, vol. 178, Issue 4059, p. 368-375.(オルテガ仮説)においてホセ・オルテガ・イ・ガセットの著作「La rebelión de las masas(大衆の反逆)」を踏まえて「オルテガ仮説」と呼ばれ、一部の研究者による重要な仕事が科学を発展させるのだという「ニュートン仮説」と対立している。

 

丁寧な作業だが、現代のドラフトチャンバーを知っている身からすると恐ろしい。

ドラフトチャンバーはドラフト、ヒュームフード、ドラチャンなどと様々に呼ばれる化学実験用の設備。空気を内部に吸い込むことによって危険なガスが発生するような実験でも比較的安全に行うことができるが、正直作業はしにくい。生物学の分野ではクリーンベンチという似たような機材が無菌状態を保つために使われるが、これは空気を外側に流れるようにすることで外部から余計なものが入らないようにしている。

 

わぁ。まあ科学というものはなんだかんだ言ってある程度の期間は趣味人によって発展したところがあるからな。

だからこそ科学は貴族や聖職者、上流階級の道楽であった時代もあったし、そのような「趣味」に対してがめつい人間は嫌われた。ましてや報酬を大声で求める人間は排除されることもあった。

 

油墨

クリスチアン・フリードリヒ・シェーンバインが実験の最中にこぼした酸を妻のエプロンで拭き、こっそり乾かしていたらいきなり燃えたのである。

1845年、妻の留守中に自宅で行っていた実験の最中のことである。なお妻からは家での実験は禁止されていたようだが、この後どのような騒動になったのかの記録は見当たらない。

 

まあ実際これを使って作った再生繊維の服がよく燃えて大変なことになったので応用は難しい。それでもこれが作られた当時は代替素材がないか、あるいはこのニトロセルロース自体が代替素材として使われたので定期的に色々なものが燃えたと聞く。

ニトロセルロース繊維やセルロイドはその便利さと安価さ(絹や象牙に比べれば安い)によって様々な製品に使われ、よく燃えた。しかしその後の有機合成化学の発展によって今日ではほとんど見かける機会はない。

 

今更になって気がついたが、この紙はインクがにじみにくいのだ。

製紙は沼です。事実ヨーロッパで使われていた紙はインクが滲まないようサイズ剤を添加するというアラビア圏での知識を取り入れたものだった。

 

「場合によっては、図書庫の城邦の尺が一帯の標準となるかもしれない、と」

単位を統一することは国家の威信を示すものであり、我々の知る世界でもフランス革命後の新単位系確立は大事業であった。ちなみにアメリカにおける単位系は全てメートル法と誤差なく換算可能であることはあまり知られていない。まあ換算係数が汚い数字なのだが。

 

晩餐

かつていた業界が一部の政治家に少し色々されたのでそっちの方面の政権やら党やらへの印象は良くないのだが、別に政治という行為に対して特別な感情を持っているわけではない。

民営化運動と社会教育施設への出資削減、独立行政法人化などなどのこと。まあ万人に受け入れられる政治的選択というものはないのだから仕方のない面はある。カネがないのが悪いと言ってそれで投げる人もいるがこれはこれで何の解決にもならない無意味な意見である。ここらへんはまともに議論しようとすると絶望するのでしたくない。

 

寝台にいるケトが入っている布団のようなふかふかした防寒具に足を突っ込んでいるので、まあ、そうだろう。

掻巻と寝袋をあわせたようなもの。さらりと寝台を共にしていることに気がついた読者はいただろうか。

 

どう考えても私が犯人である。

運命の女(Femme fatale)」というモチーフがある。これは恋を寄せた男性を破滅させるような魅力的な女性を指すが、私の知る限り文化英雄としての側面を持つ運命の女(Femme fatale)を描いた作品は存在しない。なんでやかっこいい博識お姉さんにみんな人生めちゃくちゃにされたいやろ!

 

たぶんたこ焼き器みたいなもので卵をベースとした生地を焼いているのだろう。

大英博物館(British Museum)所蔵、所蔵番号(Registration number)1856,1226.699はイタリア共和国カンパニア州ナポリ県トッレ・アンヌンツィアータで発見された青銅製の焼き型(baking-pan)である。ヴェスヴィオ山の噴火によって埋もれた街から発掘されたものであるが、かなりたこ焼き機である。

 

選択

骨相学の本は昔読んだけど忘れてしまったな。

骨相学は頭蓋骨の形状から性格などを読み取ろうとした学問であるが、19世紀前半のブームが過ぎ去った後は一気に人気がなくなった。しかしながら後の科学や文化に与えた影響は小さくない。

 

学芸員の資格は忙しくて取れなかったが、博物館学の教科書は一通り読んであるし、国立産業技術史博物館は国立大学法人法で設置されるので博物館法で言う博物館ではなく学芸員はいない。

例えばモデルの一つである国立民族学博物館にいるのは「教員」「専門職員」「事務職員」である。ここを踏み込むと誰もよく理由をわかっていない面倒なセクショナリズムが始まるのでやめよう。

 

目的

全員男性だ。

察してください。(具体的に言うと現実の問題と色々ぶつかるので)

 

たとえそれが物語(narrative)であることを加味しても私とは違うように思えた。

現象の背後にある根本的な「構造」を解明しようとする構造主義の発展を受けて生まれた物語(narrative)という概念は歴史学にも導入され、ヘイドン・ホワイトは歴史というものは体制擁護の側面を持つ物語(narrative)であるという考え方を唱えた。ここらへんは歴史哲学の範囲なので色々と面倒。詳しくやりたい人はエドワード・ハレット・カーの「歴史とは何か(What is History?)」を読めば入門にはいいと思うが、これを最初から読むのはただの自殺行為なのでもう少し段階を踏もう。

 

私の知る歴史ではそれをできたことはほとんどなかったが。

理由の一つとして、実際に技術を発展させてしまったほうがあらゆる面でのイニシアチブを取れるという点が挙げられる。技術を選択し、混乱を抑えたとしても海の向こうの国がより強い兵器で攻めてくれば何もかも台無しなのである。

 

「川は流れねば濁るが、大きすぎる流れは泥を巻き上げる。言葉通りだな」

これについてはあまり出典らしい出典はない。オリジナル。

 

巡歴

磁器のコップが実験に使われているものと同じ形をしているのは気がつかなかったふりをしておこう。

コーヒーを化学実験用のビーカーを使って淹れるデメリットの一つは持ち手がないことである。

 

「発表しなよ」と懇親会で言われたので次の年度にスライドを作って全国大会に乗り込んだのは懐かしい思い出だ。

この物語はフィクションであり、実際の大学生、学会、研究者などとはあまり関係ないです。

 

ヨハネス・グーテンベルク流であれば鋼鉄の父型で銅の母型を作るのだが、電胎母型法ではメッキを使う。

「ヨハネス・グーテンベルク流」について詳しく知りたい場合は フレット・スメイヤーズ. カウンターパンチ : 16世紀の活字製作と現代の書体デザイン. 山本太郎 監修, 大曲都市 訳. 武蔵野美術大学出版局, 2014. がたぶん日本語文献で一番詳しい。

 

試行錯誤

古い布で動物の毛をくるんで作った短穂(たんぽ)

短穂(たんぽ)は版画などでつかうインクをぽんぽんするやつ。

 

紙が硬いのだろうか?少し湿らせてみよう。

実際にこういうことがヨハネス・グーテンベルクの時代にもあったらしい。

 

さらなる発展には統計学の基礎知識が必要で、そのためには微積分ができなくてはならない。

中心極限定理の証明は20世紀に入ってからであるし、ここらへんは一般教養レベルの数学を(たぶん)超えている。

 

発展

「本当に危ないものだからだよ」

言語の統一はナショナリズムの第一歩とまでは言わないが、「国民」を形成するために重要な要素であることには間違いない。

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