僕の仕事は、気づかれないことだ。

 宗像湊、征嶺学園一年。元子役。人を輝かせるのは得意で、自分が見られるのだけが怖い。

 生徒会長選挙に立ったのは、誰にも「お願い」と言えない少女、九条アリサ。対立候補は完璧すぎる令嬢、周防有希。湊は親友の久世政近とともに、アリサ陣営の「演出担当」に就く。自分で作った、この学校に存在しない役職だ。

 マイクスタンドを八センチ上げる。椅子の座面を二センチ下げる。掲示は床から百四十二センチ。誰にも気づかれない調整だけで、湊は八百人の視線を動かしていく。

 ただし、彼が目を離せないのは、倒すべき対立候補のほうだった。

 名簿に彼の名前はない。記録にも残らない。

 それでも、あの八センチは彼が決めた。