【挿絵表示】
砲は、見つかった瞬間に死ぬ。
大陸戦争開戦から一か月。
航空偵察と爆撃機による「対砲兵戦」が戦場の常識を変えた。
偵察機が空から砲陣地を探し、写真を撮る。
数時間後には爆撃機が飛来し、巨大な重砲を地上ごと吹き飛ばす。
隠れられない兵器に、生き残る道はない。
海軍砲術将校アルヴィド・ホルム中尉も、その戦場で親友を失った。
やがて彼に命じられたのは、建造中止となった戦艦から取り外された四十センチ砲を、陸上で運用することだった。
巨大な砲を載せた装甲列車――ヨルムンガンド。
しかし、ノルトラントが保有できたのは、わずか三門。
敵の航空偵察網を前に、正面から戦えば三門とも長くは持たない。
そこで立ち上がったのが、元国鉄運行計画課のハンナ・リースだった。
「敵に、砲の数を間違えさせます」
囮列車。
偽の運行表。
待避線を走る列車。
夜ごと変化する運行経路。
ハンナは兵士ではない。
それでも彼女は、軍隊より巨大な兵器を知っていた。
――鉄道網そのものを。
一方、ヴァルデン軍の砲兵情報将校エーリヒ・ザイツ大尉は、奇妙な砲撃記録に遭遇する。
写真では七門以上あるはずなのに、移動時間が合わない。
砲撃地点は増えている。
だが、列車の数は増えていない。
弾痕、航空写真、列車の時刻、変電所の電力記録、砲身の寿命。
元数学教師のザイツは、戦場に残された数字を一つずつ拾い上げる。
そして気づく。
敵は砲を隠しているのではない。
存在しない砲を、存在するように見せている。
空から見る者と、空から見られる者。
数を増やす者と、数を減らそうとする者。
二人の頭脳戦が始まったとき、戦場ではさらに異変が起きていた。
重砲が次々と狩られていく。
見つかれば死ぬ。
だから、撃っては走る。
ヨルムンガンドだけが、砲兵戦の常識から逃げ続ける。
だが、敵もまた学習する。
より高く飛ぶ偵察機。
より速い写真判読。
囮を逆手に取る砲兵情報戦。
そしてついに、ヨルムンガンド自身が狩られる側に回る。
これは、巨大な四十センチ砲を巡る戦争の物語ではない。
一枚の航空写真と一本の鉄道から、敵の思考を読み、敵の思考そのものを欺く戦争の物語である。
三門の砲を、八門に見せる。
八門を、三門に戻す。
最後に読み切られるのは、砲の位置か。
それとも――この戦争を動かしている、一人の人間の思考か。
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幻影砲兵 第一部「大蛇の目覚め」
- 0話 砲声は後から来る (改)
- 1話 見つかった砲
- 2話 戦艦の砲