「俺を忘れろ」と婚約者に言われましたので記憶を消しました――ところで、あなたはどちら様ですか? ~記憶消去スキルで好きも嫌いも選び直します~
オリジナル:ファンタジー/恋愛
タグ:婚約破棄 女主人公 記憶喪失 じれじれ ラブコメ 身分差 ハッピーエンド
▼下部メニューに飛ぶ
苦手な若草色のドレスも、声を立てない笑い方も、ワルツを断る癖も、全部。
その婚約者が、夜会の満座で言った。
「俺のことなど、忘れろ」
――承知いたしました。
カロリーネは母方に一生へ一度だけ伝わる〈選び忘れ〉――忘れたい人をひとりだけ、心から解いて流す秘伝――を、その夜のうちに使った。
消えたのは彼の名と姿、彼がいた場面の「意味」だけ。
なぜ苦手な色ばかり衣装部屋に並んでいるのか。毎週の観劇で、なぜ一度も笑わなかったのか。七年の暮らしの跡には、理由だけが抜けた、きれいな空白が残った。
翌朝、泣き顔を見物に来た元婚約者へ、彼女は完璧な礼とともに首を傾げる。
「――ところで、あなたはどちら様ですか?」
以来、彼が何度「会えば思い出す」と迫っても、先入観ゼロで向き合った彼女は三分で席を立つ。
そんな中、観劇の幕間に口論ばかりしてきた無愛想な公爵だけが言うのだ。
「昔の君を教える気はない。今の君が選べ」
彼女は過去を復元しない。好きも嫌いも、自分の舌と目で選び直す。
――一年後、元婚約者が同じ夜会・同じ音楽・同じ言葉で過去を再現した夜、彼女は静かに首を傾げるのである。
「初対面の方にしては、ずいぶん馴れ馴れしいですわね」
| 1. ところで、あなたはどちら様ですか? | |
| 2. 若草色は、どなたのお好みでしたの | |
| 3. 幕間にお静かな方 | |
| 4. 三分でございます | |
| 5. ワルツは二曲目 | |
| 6. 香りの空白 | |
| 7. 思い出はお間違いです | |
| 8. 余興ではございませんの | |
| 9. 縁を結んだ覚えがございません | |
| 10. 娘は道具ではありません | |
| 11. 初対面の殿方の持ち時間 | |
| 12. 七年分の日記 | |
| 13. 聴かず嫌い | |
| 14. 凍った湖の東屋 | |
| 15. 昔のあなたに戻す会 | |
| 16. あなたは、空白の理由をご存じですのね | |
| 17. 初めての喧嘩 | |
| 18. 桟敷の罰 | |
| 19. 妹の糸 | |
| 20. あの娘は、もうおりませんの |